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和歌山地方裁判所 昭和24年(行)10号 判決

原告 丸善石油株式会社

被告 和歌山県知事

一、主  文

被告が昭和二十三年八月一日付和歌山海に第四六九号を以て為した買収処分中別紙目録記載の土地に関する部分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨

主文同旨。

三、事  実

原告訴訟代理人はその請求原因として、原告は資本金一億二千万円の製油会社であつて和歌山県海草郡下津町地区にも製油所を設け昭和十年以来石油製造事業を盛大に行い、これが用地として同町大字小原ほか数地区に広範囲な土地を所有して宅地、事業場として使用してきたところ、今次戦争により右工場の施設の大部分を焼失したので原告は製油業の復興に備えて再びこれ等空地に工場社宅等を建設すべくこれが整地をしてきたところ同町農地委員会は昭和二十二年十一月頃自作農創設特別措置法(以下自創法と略記する)第三条に基き原告所有の右小原の土地三十筆につき買収計画を立てた模様であつて、原告はこれを知らず異議等の申立なく徒過していたところ被告より昭和二十四年五月三十日右土地を買収する旨の昭和二十三年八月一日附和歌山海に第四六九号買収令書(甲第一号証)の交付を受け、こゝに始めて買収処分の為された事を知つた。

しかしながら、右買収対象三十筆のうち別紙目録記載の十七筆については被告の買収処分はいずれも違法である。即ち右十七筆は地目はすべて田乃至畑となつているが買収計画樹立当時の現況はいずれも農地ではなく、原告が所有して以来終始事業用地としていたもので一度も農地として使用したことがない。詳言すればそのうち字拝町の十一筆は完全な宅地であつて、先に被告が下津町に譲渡することを余儀なくされた下津新制中学校敷地に存在する原告所有建物の移転予定地であり、字瀬戸山の六筆は原告が同地域において計画実施中の隧道開設のための掘出土砂の置場乃至その作業用地である。以上によりこれら十七筆について被告の為した買収処分は違法であるから、これが取消を求めるため本訴請求に及んだものであると陳述し、被告の本案前の抗弁(二)に対し、被告は先に昭和二十三年八月一日付和歌山に海草第四六九号(甲第三号証)を以て本件土地を含む三十三筆について自創法第三条に基き買収する旨の買収令書を発した趣であるが該令書は原告のもとの本店所在地に宛てて送付せられた為同所に在る訴外丸善鉱油株式会社より転送を受け、昭和二十四年二月九日初めて該買収処分のあつたことを知つたので、これを不服として百方交渉の結果下津町農地委員会より被告に対しいわゆる訂正削除の申請があり、被告より原告に対し右買収令書を返戻せられたいと申入があつたのでこれを返戻し其後改めて新なる内容をもつて本件買収令書が原告に交付されるに至つたのであるから本件買収処分に対する出訴期間は、原告が被告より新たな令書の交付を受けた昭和二十四年五月三十一日を本件買収処分のあつたことを知つた日として起算さるべきものであると述べた。(立証省略)

被告指定代理人は先づ本案前の抗弁として、原告の訴を却下する、訴訟費用は原告の負担とするという判決を求め、その理由として、

(一)  本訴は買収処分に対する出訴期間を徒過して提起されたものである。被告は昭和二十三年十一月十八日本件土地を含む約三十筆につき和歌山に海草第四六九号(甲第三号証)の買収令書を発しおそくとも昭和二十四年二月九日原告に交付し買収処分のあつたことを知らしたのであるから本訴は出訴期間の経過せるものとして却下さるべきである。

もつとも下津町農地委員会は昭和二十三年六月及び昭和二十四年二月の二度に亘り被告に対して右買収対象につき訂正削除の申請をしたので被告は原告より右買収令書の返戻を受け改めて同じ日附を以つて訂正削除の結果本件土地を含む三十筆について新たな買収令書(甲第一号表)を昭和二十四年五月三十日原告に交付しているが、買収処分は前後を通じて一つであるから再度に交付した昭和二十四年五月三十一日は出訴期間の起算日とはならない。

(二)  仮に然らずとするも、既に確定した買収計画の違法を理由として被告の為した買収処分の取消を求めることは許されない。(大阪高等裁判所昭和二十四年(ネ)第一六五号宅地買収処分取消請求事件判決参照)然るに原告は下津町農地委員会が昭和二十二年十一月樹立した買収計画に対して法定期間内に異議の申立を為す事なくこれを徒過したため和歌山県農地委員会の承認を経て買収計画は確定したものである。従つて争い得なくなつた買収計画の違法を理由として買収処分の取消を求める本訴は手続の段階を乱るものであつて失当であると述べ、次いで本案について原告の訴を棄却するとの判決を求め、本件土地の性状に関する原告の主張事実については別段の主張はなさず甲号各証の成立を認めた。

四、理  由

一  本件土地については、時を異にして二通の買収令書が発せられており、その内、昭和二十三年十一月十八日和歌山に海草第四六九号(甲第三号証)を以つて発せられたものは遅くとも昭和二十四年二月九日原告に交付され、その後昭和二十四年に和歌山海に第四六九号(甲第一号証)として発せられたものは同年五月三十日原告に交付されたことは当事者間に争がない。

原告はこの後者による買収処分の独自の存在を主張してその取消を求め、被告は本件土地の買収処分としては前者が存在するのみであることを前提として出訴期間経過の主張をするから、先ずこの点について考察するに、成立に争のない、甲第一号証第三号証及び第四号証の一乃至八並に証人田中壽行、松本重雄の各証言と弁論の全趣旨とを総合すれば、甲第三号証による最初の買収処分はたゞに自創法第九条によつて要求せられている買収令書の記載要件たる原告の住所を誤つていたのみならず買収目的物・面積・買収範囲の特定方法等において不当なものが多く令書交付の適法性についても疑があり、和歌山県農地委員会も下津町農地委員会からの屡次に亘る買収計画訂正申請を容れたので、被告またこれに基いて前記買収処分乃至買収令書を訂正変更すべきところ、その個所が余りに多いので、むしろ前処分は一応これを撤回し新たに甲第一号表による処分を為したものと認めるを相当とする。そもそも、数十筆の買収処分の一部又は一筆の買収処分の面積対価等に不当なものがあつてこれを正すに当り、その部分のみを変更(厳格な意味における訂正削除)するとその全部を廃して更に新たな処分をするとは処分権者の任意に選び得るところであつて、被告等はしばしばこの後の方法によつていることは当裁判所に係属した同種訴訟の審理上顕著なところであるのみならず、前記甲第一号証の買収令書の形式はさきの同第三号証のそれと全く同一であつて、いずれも自創法第九条の要求する独立の買収令書たるの形式要件を完備している点からしても右認定の正当なことを覗うに難くない。しかして、国家機関の意思表示が前後数回に亘つて重ねてなされたときはその最後のものを以て右機関の意思と見るべきは言をまたないところであるから、後になされた甲第一号証による買収処分の独自的な存在と効力とを否定することはできない。されば、右甲第一号証による買収処分の取消を求める行政訴訟の出訴期間はその被告に交付せられた昭和二十四年五月三十日を基準として算定すべく、本件訴状がその法定期間内たる同年六月二十七日に提出せられたこと記録に徴し明白であるから、出訴期間経過を理由とする被告の主張は失当である。

二  次に被告は、原告の攻撃する買収処分は買収計画に基いてなされたものであるところ、前段階たる買収計画が期間を遵守した異議の申立なくして確定し不可争力を生じた以上は、後の段階たる買収処分は買収計画の違法を理由としてその取消を求め得べきものではないと主張するから、この点について判断する。そもそも、自創法による農地の買収手続は買収計画の樹立、異議の申立に対する決定、訴願に対する裁決、承認、買収処分等の相連なる複数の段階的処分の体系であつて、差当りは買収処分に到達することを目途とし、更に売渡手続の諸過程を経て、農業生産力の発展と農村民主化の促進に資せんとするものである。されば、買収手続における各行政処分は各独立の行政処分たるの一面を有すると共に究極の目的に向つて段階的に奉仕する手続の一環たるの面をもつものである。いま、買収処分が独立の行政処分たるの面より事を論ずるならば、その処分が実体的に自創法の許さない土地について為され又は形式的にその手続方式に違背するところがあれば、これを理由として直接買収処分に対して取消訴訟を提起し得べきことは多言をまたない。また若し、手続の一環たる面に着目するときは、瑕疵ある買収計画に基いて為された買収処分は当然その瑕疵を承継するものと言うべく、このことは買収計画が出訴期間の空過によつて異議訴願等を以て争い得なくなつた場合においても同様である。けだし買収計画に対する異議申立期間の空過によつて生ずる不可争力は異議申立権を失わしめるに止まり買収計画に内在する瑕疵を全面的に治癒するものではないからである。しかのみならず、農地調整法の定むるところによれば、知事は市町村農地委員会及び都道府県農地委員会を監督し、その議決(決定又は裁決を含む)が法令に違反し又は著しく不当であると認めるときはこれを再議に附し又はその取消を請求することができるのみならず、県農地委員会が違法な買収計画に対して承認を与えた場合といえども自己の固有の権限たる買収処分に当つてはこれについて買収を為さざるの権限と職責とを有することが明であつて、畢竟、買収処分は処分時におけるあらゆる実体的形式的要件を審査してこれを為すべきであり現実においても右の如き措置が執られていることもまた当裁判所に顕著な事実である。されば、買収処分の内容に存する瑕疵が、すでに買収計画の内容に胚胎していたとしても、買収計画に対する出訴期間の経過後において右瑕疵を理由として買収処分の取消を求めることは何等の妨げがない筈である。本訴は直接買収計画の違法を主張せず買収処分の内容の違法を主張するものであるからその適法なること勿論であつて仮りに買収計画の違法を理由とするものであつてもその許さるべきことは以上の説明によつて明であつて、被告のいわゆる本案前の抗弁はいずれも採用することを得ない。

三  よつて進んで本案について審査するに、検証の結果並に証人松本重雄、秋山次郎、福田豊、田中壽行の各証言と弁論の全趣旨とを総合すれば、原告は資本金一億二千万円の石油製造会社であつて本件係争地の存する下津町にも約十万坪に亘る工場を設けていたところ、昭和二十年七月二度の空爆によつて施設の多くを焼失しその後復旧工事に従事中その筋の命により一時製油作業を中止し僅に廃油の精製、石鹸等の製造を事としていたが、昭和二十四年七月日産二千バーレルの製油の許可があり、更に日産六千バーレルの全能力回復を目途として鋭意設備の復旧作業に従事中であること(現在已に原油第一船が到著しその稼動が開始せられたことは新聞記事によつて顕著である)、本件土地はいずれも原告が工場用地として昭和十六、七年頃買収し、うち字拝町所在の地上には原告の経営する附属病院、社宅等を建設していたものであつて、現在その空地の一隅には多少の耕作が第三者によつて為されているけれども、それは本件買収計画以後特段の契約なくして行はれているものであり、また字瀬戸山所在の土地は製油作業上絶対に必要な多量の用水補給のため有田川から引水する隧道掘さくの用地並にその廃石捨場であつて、戦時中すでに両側より高さ七尺巾六尺の隧道を各五百米宛掘進しあますところあと僅に二三百米となつた際前記空爆と終戦とによつて一時中止のやむなきに至つたものであつて、右土地の大部分には右掘さくにかゝる岩石が三、四間の高さに堆く積まれておつて到底耕作に堪えるものではなく、その余の部分は現在第三者によつて耕作されているけれども、買収決定の基準時期においては、右隧道並に用水溝の敷地或はその工事現場に非ずんば掘さく工事用飯場が建設せられていた所であつて、工場復原のためには右隧道の完成を要し、そのためにはこれを引続き以上の目的の為に使用する必要があること明白である。要するに、本件土地はいずれも基準時期においてもその現況が農地でなかつたことが明であるから、これを農地として買収した本件買収処分はこれを取消し訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 井関照夫 吉井正一 林義雄)

(目録省略)

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